MIRACLE。(中編)
2007年11月16日 中長編。〔簡単なあらすじ〕
中3の体育祭、7組風紀委員の自分とミュウは委員会対抗のリレーに全力を注ぐ事を決めていた。
バトンパスの練習も含め、自信をつけていた自分達であったが、当日、ミュウが途中で転んでしまった。
大歓声を浴びる中、ミュウや自分、3年風紀委員の全員は複雑な気持ちでトラックから退場した。
花形・委員会対抗リレーが終わり、トラック上が次の競技に向けて再び慌しくなる。
しかし自分達はその様子を心躍らせて見る訳にはいかなかった。
ミュウは6組女子、サトに連れられて水道場に行ったようだ。
自分はとりあえず残った風紀委員を集めた。明るい顔を見せる委員はいなかった。
ないと「あ、えっと…。。。」
自分は少しでも皆に声を掛けたかった。でも、この時ばかりは掛ける言葉に詰まった。
女子「…ミュウ、大丈夫かな。」
男子「こけたのって、集団に揉まれたからじゃねーの…?」
男子「誰かにこけさせられたとか?」
女子「それは…もしあったとしても責めきれないよ…。」
数々の小声が聞こえる中、ミュウにバトンを渡した6組男子、タカが静かに口を開いた。
タカ「…ないと、バトンって最後まで途切れてねーよな?」
ないと「…ミュウが転んだとは言え、自分は…最後まで繋いだ。」
タカ「ミュウはこけてバトン落としても、『みんなの頑張り』は繋ごうとしてたよな?」
ミュウが転びながらも自分にバトンを渡そうとした時の顔が思い浮かぶ。
その時のミュウの顔は、いつもの、強気で勝気で…。
決して諦めを含んだ顔ではなく、前向きな顔だった。
ないと「してた。絶っ対してた!それで自分も頑張れたんやて…。」
タカの真剣な表情に劣らない形相で、自分はタカにそう返答した。
タカ「じゃぁ俺達の目標ってちゃんと達成されてんじゃん。」
暫くの間を置いて、3組の女子が口を開いた。
女子「…そう、だよね、順位じゃない、よね。」
タカ「俺達の目標は確かに『Aクラス入り』だった。でもさ…、」
男子「Aクラス入りするには、バトンが最後まで繋がる事が不可欠だもんな!」
女子「ちゃんと満たしてるんじゃんね!目標!!」
男子「風紀委員のチームワークってモノを、応援してくれた皆に見せられたじゃんっ!」
女子「しかも、『みんなの頑張り』も最後まで繋げたし!」
タカ「だろ!俺達はこんな暗い顔する必要ねぇんだよ!むしろ、
こけながらも『みんなの頑張り』をないとに繋いだミュウはヒロインだぜっ!」
ないと「…そうやな!そうやんな!」
暗い雰囲気が一転。その場に居た3年風紀委員に笑顔と明るさが戻った。
輪になって集まった3年風紀委員は、笑顔で両隣の委員とハイタッチを交わす。
ないと「3年風紀委員っ!みんなで頑張りを繋げたって事で、目標達成〜っ!!」
一同「おぉぉ〜〜!!」
声を上げると共に、風紀委員のトレードマークであった緑色の腕ピンを全員で一斉に上へ放り投げた。
そうだ。さっき退場時に受けた拍手や歓声も、
『みんなで頑張りを最後まで繋げた』という事に対するものだったと考えれば良いのだ。
風紀委員の団結はやはり固かった、それが実感できた瞬間だった。
タカ「ないと、ミュウ、どーかな?」
風紀委員の集まりを解散し、各自クラスの応援席に戻ろうとした時だった。
ないと「今、一応サト(6組風紀♀)が一緒にいるけど…見に行ってみよか。タカ、来るか?」
タカ「あぁ、行く。サトの性格だと精一杯フォローのコトバとか掛けてんだろな;」
水道場へ行くと、ミュウとサトが楽しそうに喋っていた。
その姿にお笑い芸人張りのコケを見せる自分とタカ。
タカ「おい;随分楽しそうだなぁ〜;」
今ではミュウは明るい笑顔を取り戻している。
ただ、ミュウだって少なからず落ち込んでいたはずだ。
それを短時間で笑顔に変えて談笑の雰囲気へ持ち込んだ、サトの力量にも尊敬の念を覚えた。
タカと自分はその後、先ほど風紀委員で集まってまとまった内容を話した。
サト「だよね〜♪ほらミュウ、目標達成だよ!やったね^^」
ミュウ「うん…そーだねぇ。」
タカ「どーも顔が浮かねぇな。なにか…」
アナウンス(3年6組の風紀委員2名、至急持場につきなさい。繰り返します…)
サト「あ!2年生の『空飛ぶ絨毯』のゴール担当アタシらじゃん!?」
タカ「やべっ、忘れてた!ないと、わりぃ!行ってくるわ;」
ないと「りょーかい、ちゃんと働けや〜!;」
慌しくトラック内へ戻っていく2人を笑顔で見送る。ミュウも、笑っていた。
水道場脇にミュウを座らせたまま、自分は視線をトラックからミュウへと向ける。
ないと「ま、話はさっきタカが話したとおりやから。そう背負わんでも…」
ミュウ「ん〜、ほんっっっとに、風紀委員の皆の優しさには感謝だよ。
でも、ホントに頑張りは繋がったのかな…?アタシ、バトン落としたよ;」
ないと「バトン関係なしに、頑張りは繋いだよ。バトン渡す時のミュウの顔は、頑張ってたもん。
それで自分も、頑張ったし。」
ミュウ「ん。ないとの走りは見てたよ、へばりながらも。(笑)
あの走りは確かにマジだったね、繋がってたんだね、頑張り。」
へばりながらも走りを見られてたと言われると正直恥ずかしく、
咄嗟に視線をグラウンドの方へ戻した。
また、ミュウに背を向けたと同時に、「良かった…」と小声で聞こえたような気がした。
ないと「それと、、、誰もミュウを責めてはおらんからな、塞ぎ込んだらあかんよ?」
ミュウに背を向けたまま言葉を発する自分。
ミュウ「…うん、分かった。」
ないと「『振り返れば、仲間がいる』、いつでも忘れたらあかんで?」
『振り返れば、仲間がいる』
これは3年になったばかりの自分達が掲げた風紀委員会を象徴するフレーズだった。
このフレーズの原案を考えたのが、実はミュウだったのである。
どんなに大変な時でも、どんなに苦しい時でも、振り返れば仲間がいる、
そう思えればどんな苦境をも乗り越えることができる。
3年になって1回目の風紀委員会で書記のミュウが公言したヒトコトであるが、
この時は、委員長としての立場的には書記に凌駕され、恥ずかしいものがあったが、
フレーズ自体は不思議とすぐにアタマに入り、記憶にも残るフレーズとなった。
ミュウ「…そうだね。」
少し間を空けて答えたミュウの声は震えていた。もしかしたら、泣いてるのかもしれなかった。
でも、自分はその声を背中で受けて、先に応援席へ戻ってるという事だけ告げて駆け出した。
ミュウは普段から強い人だった。だから、そのミュウが泣く姿を見たくなかった、
若しくは、見てはいけないのだと、その時の自分は思っていたのかもしれない。
一足先に応援席に戻った自分は、ミュウを心配するクラスメイトに表面的に事情を説明し、
少し先に迫る大トリ、クラス対抗男女混合リレーに備える事にした。
(自分は8番目やったな。確か、ミュウは3番目。… … …ミュウ??)
そのリレーにはミュウも出場する事に気付くと、
早速このリレーのまとめ役である体育委員にその事を告げに行く。
体育委員カズ「ミュウはそーだよな、さっきので怪我してんだよな。走れるんだろーか?」
ないと「ちょっくら今訊いてくるわ、水道んトコに居てるから。」
カズ「おぅ、頼む。もし無理そうなら早めに言ってくれ、代役立てるから。」
ないと「りょーか…あれ?ミュウ!」
自分が水道場へと行こうとした時、ミュウが戻ってきた。
体操着は相変わらず砂塗れで膝もまだ赤みが残っているが、顔は真剣だった。
カズ「ミュウ、大丈夫か?この後の混合リレーどうする?」
ミュウ「…カズくん、ちょっと相談があるんだけど…。」
カズ「あ?あぁ。」
ミュウはカズに両手を合わせて申し訳なさそうな顔をした後で、手招きをしてカズを呼び寄せる。
ないと「…あ、とりあえず混合リレー出るヒト、集まっておこか。」
ミュウとカズは応援席からだいぶ離れた場所で何やら話しこんでいる。
自分を含め、混合リレーに出る残り8人が集合した頃、2人が応援席裏へと戻ってきた。
カズ「あ、みんな揃ってるか。急で悪いんだけど、走る順番を変えようと思う。」
男子「マジか!俺はトップで行かせてくれよ〜。」
当初、切り込み隊長を任された陸上部の男子が不安そうにカズを見つめる。
ないと「順番…今からで間に合うんか?」
カズ「大丈夫、この順番なら7組は絶対勝てる。」
一同「えぇ〜!!」
絶対、勝てる。果たしてミュウはカズにどんな相談を持ちかけたのか、
この時点ではその相談と順番の変更の因果はサッパリ分からなかった。
カズ「じゃぁ順番だが… … …、1,2番は変わらないで行く。」
少しの間をもってカズがそう告げる。
陸上部の彼の安心した表情が眼に入った。彼には相当期待したいところだ。
カズ「で、3番はミュウじゃなく、悪いが4番以降7番まで1つずつ前にズレてくれ。」
ないと「って事は…自分はまだ動かないんか。」
カズ「うん。で、だ。7番目に元9番を置いて…。」
ないと「…てか、自分(元8番)は?8番のまま、とか??」
カズ「俺が8番目、ないとは9番目、ミュウがアンカー、以上だ。」
一同(ワタクシ含め)「えぇぇぇぇ〜〜〜!!!」
混合リレー参加者を含め、応援席に居た3年7組全員が驚きの表情を見せる。
ミュウ「みんな、ゴメン。アタシ、さっきの委員リレーの結果がホンットに悔しくて…。
でもそれは風紀委員のみんなは全っ然悪くなくて、アタシ自身に対してすっごく悔しくて…。
それにリベンジしたいの。過酷な状況でもいいから、ケリつけたくて…。」
ざわつく中、ミュウが堰を切ったように話す。
クラスメイトみんなの機嫌を窺うかのように見回して、
一生懸命に言葉を捜して、ミュウなりにみんなに事情を説明した。
カズ「俺は、ミュウのリベンジに賛成だ。個人的に悔しいまま体育祭が終わってたまるか。」
すかさずバスケ部キャプテンのカズがフォローに廻る。
彼自身は先程の委員リレーでブッチぎってゴールテープを切った体育委員なのだが、
それでも未練の残るミュウに同情する辺りが人間として尊敬できる点だと当時から感じていた。
ミュウ「順番の変更がアタシのワガママだっていうのは分かってる。でも…アタシも貢献したい…!」
『貢献したい』、そう聴いて真っ先に思い浮かんだのは、先ほどの委員会リレーだ。
委員会で貢献できなかった分、今度はクラスで貢献したいとミュウ自身は感じているのだろう。
クラスメイト「… … …。」
ミュウ、カズの懸命なコトバ。しかしクラスメイト達の反応はまとまらなかった。
クラスメイト達は変更を嫌がっていたのではない、急な変更に困っていたのだ。
そりゃぁ、事前にリレーの順番を決めておいて、それを直前に変更されれば困惑して当然だ。
でも、その困惑の中でも、少しでも良いからミュウの気持ちを汲み取って欲しい、
自分もその気持ちで一杯だった。
ないと「みんな、自分からもお願いします。」
気がつけば、自分とカズ、そしてミュウは皆にアタマを何度も下げていた。
とその時、クラスメイトの1人が、
7組男子「俺は賛成だけど?ミュウのリベンジ。だってミュウ、体育祭前にすげー頑張ってたもんな!」
と発言。自分達3人はハッとアタマを上げた。
それをキッカケに、クラスメイト中からアンカー・ミュウを応援する声が沢山あがった。
7組男子「さっきの委員リレーでのミュウの悔しそうな顔が忘れられねぇ。こりゃリベンジしねぇと!」
7組女子「ミュウ、さっき私が走ってる時、遠くから大声で応援してくれたよね。
今度は私がミュウを大声で応援するからねっ!」
ミュウ「みんな… … …ありがとっ!!」
カズやミュウはみんなに感謝すると共に、
クラス対抗男女混合リレー必勝をクラス全体で誓ったのだった。
午後2時30分。いよいよ体育祭のトリ、クラス対抗男女混合リレーが始まる。
その入場前、自分はバトンを渡す相手であるミュウと、バトンを渡すタイミング等々を確認した。
ミュウ「なんだかんだ言って、ないとに一番メーワクかけたよね、ごめん;」
ないと「なんやねん、急に。いつもの強気なミュウさんが泣いとるよ?」
ミュウ「うん。でも…。」
ないと「リベンジすんねやろ?そんな気持ちやとあかんて、前向きに前向きに!」
ミュウ「前向き…、そだね! …よぉ〜し、ヤル気出てきたぁ〜!!」
タカ「随分燃えてんな。(笑)」
自分と燃えたミュウの脇から顔を覗かせたのは、6組風紀委員のタカだった。
ないと「そや、タカも6組代表で出るんやったな。流石サッカー部のエースストライカー^^」
タカ「やめてくれよ、そんな過去の話。もう引退したんだぜ?^^;」
ミュウ「ねぇねぇ、タカの順番は〜?」
ないと「エースストライカーとして、スタートダッシュでも決めるんか?」
タカ「あ?何か俺の知らない間に決まっちゃっててさ。アンカーだよ。」
その瞬間、自分・ミュウ・タカの3者間の空気が固まった。
「嘘やろ…」そのヒトコトが自分の全身を覆い尽くしていた。
昨日の敵は今日の友、とはよく聞くが、まさか、さっきの友がリベンジの敵になるとは。。。
タカ「7組のアンカーはカズだろ?コワいよな;一番マークしなきゃいけねぇよ。」
ないと「いや…、あのさ、さっき順番変えたんよ。でさ、アンカーは…」
ミュウ「アタシ!アタシがアンカーだよ!」
ミュウが手をめいっぱい挙げてタカにアピールする。
タカがサッカー部の精鋭であった事は知られていた。
勿論自分もミュウも知っていた。
その中でも怖気づかずにアンカー勝負を仕掛けたミュウには、
潜在的に眠る多大なるヤル気を感じた。
タカ「…は?ミュウが?何で??」
急な事でタカはキョトン顔を浮かべる。
…と、ここで入場の前段階、起立の合図が入る。
ミュウ「タカ、負けないからね!最後に笑うのは7組だよ!!」
身長では完全にタカに負けてるミュウだったが、背伸びする勢いでタカに物申す。
ミュウがアンカーの理由はもう気にならなくなったのか、
タカはミュウのコトバを受けると、フッと一息を軽く吐き捨ててこう言った。
タカ「ミュウには悪いが、7組を笑わせるワケにはいかねぇ、得点ボード、見てみ?」
そう言われて、これまであまり気にしていなかった得点ボードに眼をやると、
なんと6組と7組が同点で1位。
6組・7組がよほどの下位でない限り、
このリレーで先にゴールした方が優勝する事になる状況であった。
ミュウ「タカ!負けないよ!でも、正々堂々、お互いに頑張ろうね^^」
タカ「ミュウらしいコメントだな!こっちこそ、宜しくな!^^」
火花バッチバチの中にも正々堂々さを追求してガッチリ握手を交わす両者には、やはり脱帽である。
ミュウ「ないと!」
ないと「はひっ!?」
アンカー同士が盛り上がっていたので、
まさか自分に話は廻ってこないだろうと油断してた結果。。。
ミュウ「『みんなの頑張り』、繋いで来てよ!今度は、7組の、だからね!^^」
親指を立ててミュウが叫ぶ。その顔は、委員リレーを迎える前の時の顔、
つまりは、いつもの強気で前向きなミュウの顔だった。
ないと「任しとき!アッツアッツの頑張り、持ってったるわ!」
そのミュウの熱意に押され、自分もミュウに負けないくらいの声を張って親指を立てた。
そう言い終わった後、入場の合図が出された。
1組〜7組の走者が一斉にトラックへと入場していく…。。。
(長くなるので後編に続きます、見てくださった方々、多謝ですmm)
中3の体育祭、7組風紀委員の自分とミュウは委員会対抗のリレーに全力を注ぐ事を決めていた。
バトンパスの練習も含め、自信をつけていた自分達であったが、当日、ミュウが途中で転んでしまった。
大歓声を浴びる中、ミュウや自分、3年風紀委員の全員は複雑な気持ちでトラックから退場した。
花形・委員会対抗リレーが終わり、トラック上が次の競技に向けて再び慌しくなる。
しかし自分達はその様子を心躍らせて見る訳にはいかなかった。
ミュウは6組女子、サトに連れられて水道場に行ったようだ。
自分はとりあえず残った風紀委員を集めた。明るい顔を見せる委員はいなかった。
ないと「あ、えっと…。。。」
自分は少しでも皆に声を掛けたかった。でも、この時ばかりは掛ける言葉に詰まった。
女子「…ミュウ、大丈夫かな。」
男子「こけたのって、集団に揉まれたからじゃねーの…?」
男子「誰かにこけさせられたとか?」
女子「それは…もしあったとしても責めきれないよ…。」
数々の小声が聞こえる中、ミュウにバトンを渡した6組男子、タカが静かに口を開いた。
タカ「…ないと、バトンって最後まで途切れてねーよな?」
ないと「…ミュウが転んだとは言え、自分は…最後まで繋いだ。」
タカ「ミュウはこけてバトン落としても、『みんなの頑張り』は繋ごうとしてたよな?」
ミュウが転びながらも自分にバトンを渡そうとした時の顔が思い浮かぶ。
その時のミュウの顔は、いつもの、強気で勝気で…。
決して諦めを含んだ顔ではなく、前向きな顔だった。
ないと「してた。絶っ対してた!それで自分も頑張れたんやて…。」
タカの真剣な表情に劣らない形相で、自分はタカにそう返答した。
タカ「じゃぁ俺達の目標ってちゃんと達成されてんじゃん。」
暫くの間を置いて、3組の女子が口を開いた。
女子「…そう、だよね、順位じゃない、よね。」
タカ「俺達の目標は確かに『Aクラス入り』だった。でもさ…、」
男子「Aクラス入りするには、バトンが最後まで繋がる事が不可欠だもんな!」
女子「ちゃんと満たしてるんじゃんね!目標!!」
男子「風紀委員のチームワークってモノを、応援してくれた皆に見せられたじゃんっ!」
女子「しかも、『みんなの頑張り』も最後まで繋げたし!」
タカ「だろ!俺達はこんな暗い顔する必要ねぇんだよ!むしろ、
こけながらも『みんなの頑張り』をないとに繋いだミュウはヒロインだぜっ!」
ないと「…そうやな!そうやんな!」
暗い雰囲気が一転。その場に居た3年風紀委員に笑顔と明るさが戻った。
輪になって集まった3年風紀委員は、笑顔で両隣の委員とハイタッチを交わす。
ないと「3年風紀委員っ!みんなで頑張りを繋げたって事で、目標達成〜っ!!」
一同「おぉぉ〜〜!!」
声を上げると共に、風紀委員のトレードマークであった緑色の腕ピンを全員で一斉に上へ放り投げた。
そうだ。さっき退場時に受けた拍手や歓声も、
『みんなで頑張りを最後まで繋げた』という事に対するものだったと考えれば良いのだ。
風紀委員の団結はやはり固かった、それが実感できた瞬間だった。
タカ「ないと、ミュウ、どーかな?」
風紀委員の集まりを解散し、各自クラスの応援席に戻ろうとした時だった。
ないと「今、一応サト(6組風紀♀)が一緒にいるけど…見に行ってみよか。タカ、来るか?」
タカ「あぁ、行く。サトの性格だと精一杯フォローのコトバとか掛けてんだろな;」
水道場へ行くと、ミュウとサトが楽しそうに喋っていた。
その姿にお笑い芸人張りのコケを見せる自分とタカ。
タカ「おい;随分楽しそうだなぁ〜;」
今ではミュウは明るい笑顔を取り戻している。
ただ、ミュウだって少なからず落ち込んでいたはずだ。
それを短時間で笑顔に変えて談笑の雰囲気へ持ち込んだ、サトの力量にも尊敬の念を覚えた。
タカと自分はその後、先ほど風紀委員で集まってまとまった内容を話した。
サト「だよね〜♪ほらミュウ、目標達成だよ!やったね^^」
ミュウ「うん…そーだねぇ。」
タカ「どーも顔が浮かねぇな。なにか…」
アナウンス(3年6組の風紀委員2名、至急持場につきなさい。繰り返します…)
サト「あ!2年生の『空飛ぶ絨毯』のゴール担当アタシらじゃん!?」
タカ「やべっ、忘れてた!ないと、わりぃ!行ってくるわ;」
ないと「りょーかい、ちゃんと働けや〜!;」
慌しくトラック内へ戻っていく2人を笑顔で見送る。ミュウも、笑っていた。
水道場脇にミュウを座らせたまま、自分は視線をトラックからミュウへと向ける。
ないと「ま、話はさっきタカが話したとおりやから。そう背負わんでも…」
ミュウ「ん〜、ほんっっっとに、風紀委員の皆の優しさには感謝だよ。
でも、ホントに頑張りは繋がったのかな…?アタシ、バトン落としたよ;」
ないと「バトン関係なしに、頑張りは繋いだよ。バトン渡す時のミュウの顔は、頑張ってたもん。
それで自分も、頑張ったし。」
ミュウ「ん。ないとの走りは見てたよ、へばりながらも。(笑)
あの走りは確かにマジだったね、繋がってたんだね、頑張り。」
へばりながらも走りを見られてたと言われると正直恥ずかしく、
咄嗟に視線をグラウンドの方へ戻した。
また、ミュウに背を向けたと同時に、「良かった…」と小声で聞こえたような気がした。
ないと「それと、、、誰もミュウを責めてはおらんからな、塞ぎ込んだらあかんよ?」
ミュウに背を向けたまま言葉を発する自分。
ミュウ「…うん、分かった。」
ないと「『振り返れば、仲間がいる』、いつでも忘れたらあかんで?」
『振り返れば、仲間がいる』
これは3年になったばかりの自分達が掲げた風紀委員会を象徴するフレーズだった。
このフレーズの原案を考えたのが、実はミュウだったのである。
どんなに大変な時でも、どんなに苦しい時でも、振り返れば仲間がいる、
そう思えればどんな苦境をも乗り越えることができる。
3年になって1回目の風紀委員会で書記のミュウが公言したヒトコトであるが、
この時は、委員長としての立場的には書記に凌駕され、恥ずかしいものがあったが、
フレーズ自体は不思議とすぐにアタマに入り、記憶にも残るフレーズとなった。
ミュウ「…そうだね。」
少し間を空けて答えたミュウの声は震えていた。もしかしたら、泣いてるのかもしれなかった。
でも、自分はその声を背中で受けて、先に応援席へ戻ってるという事だけ告げて駆け出した。
ミュウは普段から強い人だった。だから、そのミュウが泣く姿を見たくなかった、
若しくは、見てはいけないのだと、その時の自分は思っていたのかもしれない。
一足先に応援席に戻った自分は、ミュウを心配するクラスメイトに表面的に事情を説明し、
少し先に迫る大トリ、クラス対抗男女混合リレーに備える事にした。
(自分は8番目やったな。確か、ミュウは3番目。… … …ミュウ??)
そのリレーにはミュウも出場する事に気付くと、
早速このリレーのまとめ役である体育委員にその事を告げに行く。
体育委員カズ「ミュウはそーだよな、さっきので怪我してんだよな。走れるんだろーか?」
ないと「ちょっくら今訊いてくるわ、水道んトコに居てるから。」
カズ「おぅ、頼む。もし無理そうなら早めに言ってくれ、代役立てるから。」
ないと「りょーか…あれ?ミュウ!」
自分が水道場へと行こうとした時、ミュウが戻ってきた。
体操着は相変わらず砂塗れで膝もまだ赤みが残っているが、顔は真剣だった。
カズ「ミュウ、大丈夫か?この後の混合リレーどうする?」
ミュウ「…カズくん、ちょっと相談があるんだけど…。」
カズ「あ?あぁ。」
ミュウはカズに両手を合わせて申し訳なさそうな顔をした後で、手招きをしてカズを呼び寄せる。
ないと「…あ、とりあえず混合リレー出るヒト、集まっておこか。」
ミュウとカズは応援席からだいぶ離れた場所で何やら話しこんでいる。
自分を含め、混合リレーに出る残り8人が集合した頃、2人が応援席裏へと戻ってきた。
カズ「あ、みんな揃ってるか。急で悪いんだけど、走る順番を変えようと思う。」
男子「マジか!俺はトップで行かせてくれよ〜。」
当初、切り込み隊長を任された陸上部の男子が不安そうにカズを見つめる。
ないと「順番…今からで間に合うんか?」
カズ「大丈夫、この順番なら7組は絶対勝てる。」
一同「えぇ〜!!」
絶対、勝てる。果たしてミュウはカズにどんな相談を持ちかけたのか、
この時点ではその相談と順番の変更の因果はサッパリ分からなかった。
カズ「じゃぁ順番だが… … …、1,2番は変わらないで行く。」
少しの間をもってカズがそう告げる。
陸上部の彼の安心した表情が眼に入った。彼には相当期待したいところだ。
カズ「で、3番はミュウじゃなく、悪いが4番以降7番まで1つずつ前にズレてくれ。」
ないと「って事は…自分はまだ動かないんか。」
カズ「うん。で、だ。7番目に元9番を置いて…。」
ないと「…てか、自分(元8番)は?8番のまま、とか??」
カズ「俺が8番目、ないとは9番目、ミュウがアンカー、以上だ。」
一同(ワタクシ含め)「えぇぇぇぇ〜〜〜!!!」
混合リレー参加者を含め、応援席に居た3年7組全員が驚きの表情を見せる。
ミュウ「みんな、ゴメン。アタシ、さっきの委員リレーの結果がホンットに悔しくて…。
でもそれは風紀委員のみんなは全っ然悪くなくて、アタシ自身に対してすっごく悔しくて…。
それにリベンジしたいの。過酷な状況でもいいから、ケリつけたくて…。」
ざわつく中、ミュウが堰を切ったように話す。
クラスメイトみんなの機嫌を窺うかのように見回して、
一生懸命に言葉を捜して、ミュウなりにみんなに事情を説明した。
カズ「俺は、ミュウのリベンジに賛成だ。個人的に悔しいまま体育祭が終わってたまるか。」
すかさずバスケ部キャプテンのカズがフォローに廻る。
彼自身は先程の委員リレーでブッチぎってゴールテープを切った体育委員なのだが、
それでも未練の残るミュウに同情する辺りが人間として尊敬できる点だと当時から感じていた。
ミュウ「順番の変更がアタシのワガママだっていうのは分かってる。でも…アタシも貢献したい…!」
『貢献したい』、そう聴いて真っ先に思い浮かんだのは、先ほどの委員会リレーだ。
委員会で貢献できなかった分、今度はクラスで貢献したいとミュウ自身は感じているのだろう。
クラスメイト「… … …。」
ミュウ、カズの懸命なコトバ。しかしクラスメイト達の反応はまとまらなかった。
クラスメイト達は変更を嫌がっていたのではない、急な変更に困っていたのだ。
そりゃぁ、事前にリレーの順番を決めておいて、それを直前に変更されれば困惑して当然だ。
でも、その困惑の中でも、少しでも良いからミュウの気持ちを汲み取って欲しい、
自分もその気持ちで一杯だった。
ないと「みんな、自分からもお願いします。」
気がつけば、自分とカズ、そしてミュウは皆にアタマを何度も下げていた。
とその時、クラスメイトの1人が、
7組男子「俺は賛成だけど?ミュウのリベンジ。だってミュウ、体育祭前にすげー頑張ってたもんな!」
と発言。自分達3人はハッとアタマを上げた。
それをキッカケに、クラスメイト中からアンカー・ミュウを応援する声が沢山あがった。
7組男子「さっきの委員リレーでのミュウの悔しそうな顔が忘れられねぇ。こりゃリベンジしねぇと!」
7組女子「ミュウ、さっき私が走ってる時、遠くから大声で応援してくれたよね。
今度は私がミュウを大声で応援するからねっ!」
ミュウ「みんな… … …ありがとっ!!」
カズやミュウはみんなに感謝すると共に、
クラス対抗男女混合リレー必勝をクラス全体で誓ったのだった。
午後2時30分。いよいよ体育祭のトリ、クラス対抗男女混合リレーが始まる。
その入場前、自分はバトンを渡す相手であるミュウと、バトンを渡すタイミング等々を確認した。
ミュウ「なんだかんだ言って、ないとに一番メーワクかけたよね、ごめん;」
ないと「なんやねん、急に。いつもの強気なミュウさんが泣いとるよ?」
ミュウ「うん。でも…。」
ないと「リベンジすんねやろ?そんな気持ちやとあかんて、前向きに前向きに!」
ミュウ「前向き…、そだね! …よぉ〜し、ヤル気出てきたぁ〜!!」
タカ「随分燃えてんな。(笑)」
自分と燃えたミュウの脇から顔を覗かせたのは、6組風紀委員のタカだった。
ないと「そや、タカも6組代表で出るんやったな。流石サッカー部のエースストライカー^^」
タカ「やめてくれよ、そんな過去の話。もう引退したんだぜ?^^;」
ミュウ「ねぇねぇ、タカの順番は〜?」
ないと「エースストライカーとして、スタートダッシュでも決めるんか?」
タカ「あ?何か俺の知らない間に決まっちゃっててさ。アンカーだよ。」
その瞬間、自分・ミュウ・タカの3者間の空気が固まった。
「嘘やろ…」そのヒトコトが自分の全身を覆い尽くしていた。
昨日の敵は今日の友、とはよく聞くが、まさか、さっきの友がリベンジの敵になるとは。。。
タカ「7組のアンカーはカズだろ?コワいよな;一番マークしなきゃいけねぇよ。」
ないと「いや…、あのさ、さっき順番変えたんよ。でさ、アンカーは…」
ミュウ「アタシ!アタシがアンカーだよ!」
ミュウが手をめいっぱい挙げてタカにアピールする。
タカがサッカー部の精鋭であった事は知られていた。
勿論自分もミュウも知っていた。
その中でも怖気づかずにアンカー勝負を仕掛けたミュウには、
潜在的に眠る多大なるヤル気を感じた。
タカ「…は?ミュウが?何で??」
急な事でタカはキョトン顔を浮かべる。
…と、ここで入場の前段階、起立の合図が入る。
ミュウ「タカ、負けないからね!最後に笑うのは7組だよ!!」
身長では完全にタカに負けてるミュウだったが、背伸びする勢いでタカに物申す。
ミュウがアンカーの理由はもう気にならなくなったのか、
タカはミュウのコトバを受けると、フッと一息を軽く吐き捨ててこう言った。
タカ「ミュウには悪いが、7組を笑わせるワケにはいかねぇ、得点ボード、見てみ?」
そう言われて、これまであまり気にしていなかった得点ボードに眼をやると、
なんと6組と7組が同点で1位。
6組・7組がよほどの下位でない限り、
このリレーで先にゴールした方が優勝する事になる状況であった。
ミュウ「タカ!負けないよ!でも、正々堂々、お互いに頑張ろうね^^」
タカ「ミュウらしいコメントだな!こっちこそ、宜しくな!^^」
火花バッチバチの中にも正々堂々さを追求してガッチリ握手を交わす両者には、やはり脱帽である。
ミュウ「ないと!」
ないと「はひっ!?」
アンカー同士が盛り上がっていたので、
まさか自分に話は廻ってこないだろうと油断してた結果。。。
ミュウ「『みんなの頑張り』、繋いで来てよ!今度は、7組の、だからね!^^」
親指を立ててミュウが叫ぶ。その顔は、委員リレーを迎える前の時の顔、
つまりは、いつもの強気で前向きなミュウの顔だった。
ないと「任しとき!アッツアッツの頑張り、持ってったるわ!」
そのミュウの熱意に押され、自分もミュウに負けないくらいの声を張って親指を立てた。
そう言い終わった後、入場の合図が出された。
1組〜7組の走者が一斉にトラックへと入場していく…。。。
(長くなるので後編に続きます、見てくださった方々、多謝ですmm)
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