〔簡単なあらすじ〕

体育祭で最も頑張ろうと誓い合った委員会対抗リレーで転んでしまったミュウ。
しかし、大トリ種目『クラス対抗男女混合リレー』での順番チェンジを直前に申し出た。
クラスメイトの温かい言葉にも後押しされ、
自身をアンカーという苦境に置く事でリベンジを果たす事を宣言したのだった。


自分は先程の委員リレーとは逆のスタート位置に到着する。
緊張は、思った程はなかった。
が、同位置に配置された7組奇数走者の表情はみな真剣だった。

まずはスタートから飛ばして行きたいところだ。
アンカーにミュウを配置している分、他のクラスより前半で抜きん出なければならない。
8番カズにトップでバトンを回せれば理想だ。
見たところ自分と同じ9番手には女子が多そうだ。
ただ最後の方だけあって運動部の女子が多い、
しかし言うまでもなく差を詰められる事があってはならない。
自分の役割も大きい、でも、全ては7組のため、
そして何よりも、ミュウのリベンジのため。



いよいよ始まる体育祭最終競技、3年生によるクラス対抗男女混合リレー。

スターターが構えに入る。
第1走者7人もスタートの構えに入る。


「パーン!」


一瞬の静寂を切り裂く乾いた音。
それと共に一斉に第1走者が走り出す。トラック外からも大歓声が巻き起こる。

7組の1番走者は陸上部のムードメーカー。
スタートダッシュがウリだと言っていた通り、
素晴らしいスタートを切り、早くもトップに立つ。
第2走者へのバトンパスも無駄がない。

いつの間にか自分達7組のランナーは皆立ち上がって大声で声援を送っていた。
その後、第2走者、第3走者共にトップを守り抜いた。
第4走者、第5走者で他クラスの男子の追い上げに遭い、
一時は3位まで落ち込んだが、第6走者で再びトップに立った。
しかし、2位との差は僅か、3位以降もどんどん続いている。


実況「現在7組が1位!以下4組、2組と続いています!」


先程とは違い、放送委員の実況も耳に入ってくる。まだ6組は上位に来ていないようだった。

第7走者、段々と他クラスの男子走者が速さを増してくる頃ではあったが、
粘っこく、2位以下を徐々に突き放していった。
言わずもがな、7組走者の顔はみな真剣そのものだった。
他のクラスの走者だって真剣な顔だ。
しかし、不思議と7組走者の真剣さとは異なるものを感じていた。

第7走者が出終わって、第9走者の自分はスタート位置へと向かう。
再びレースに眼を戻せば、トップのまま第8走者カズへとバトンが渡っていた。


実況「おぉ〜っと!7組、速い、速いぞ〜!!」


実況の言うとおり、カズの走りは素晴らしかった。
2位以下の4組や2組の第8走者との差をどんどん広げていく。
しかし、4組や2組の後ろから橙の鉢巻、6組が迫ってきていた。


逃げる7組、追う6組。


第3コーナーから第4コーナーにかけては、そのような構図になっていた。


カズが必死にこちらへと向かってくる。
自分は改めて両コブシに力を入れ、バトンを受け取る体勢へと入る。
カズはスピードを落とさないまま、スムーズに自分の手にバトンを叩き入れた。

カズ「ミュウに、頼む!」

バトンを受け取った瞬間、背後からの力強い声が自分を後押しした。
この時、6組との距離はまだ十分にあった。
6組の第9走者は自分と同じくらいの速さの男子だったため、
とにかく差を詰めさせないよう、自分は懸命に走りだした。
走っている途中なんて、後ろの走者がどうとか知ったこっちゃない。
分かっている状況は、逃げる7組、追う6組。
それなら、あとは逃げ切るまでである。

第1コーナーから第2コーナーへ。
視界に桃色の鉢巻にアンカーの襷を掛けたミュウが入ってきた。
その横に並ぶのは足に長けた運動部の精鋭男子達。明らかにミュウは小さく見えた。
しかし、ミュウの顔を見れば、その顔に隙などはなかった。


 ミュウ「『みんなの頑張り』もつないでよ^^」


ミュウのコトバが再度アタマに巡る。
今度は3年7組みんなの頑張りだ。
走ってきた仲間も応援してくれている仲間も、
みんなを含めた、3年7組全員の頑張りだ。

第2コーナーを曲がり終わり、ミュウにバトンが渡るまであと僅か。
その時、ミュウの隣でバトンを待つ橙のアンカー、タカの顔が眼に映った。

…6組は?すぐ眼の前まで来てるんか?

そう思い始めはしたが、すぐにミュウへのバトンパスゾーンへと足を踏み入れる。
ミュウの顔が大きく映る、その顔つきは変わらない。


ミュウ「ないと!振り切るよっ!!」


その一言が、自分と6組第9走者との距離を暗示していた。


ないと「頼むわっ!!」


思い切り左手を伸ばし、ミュウの右掌に向かってバトンを差し出す。
ミュウは慎重にバトンが掌に納まる様子を見て、力強くバトンを自分から取り上げた。



走り終わってコース外に出た自分は、真っ先に6組の位置を把握する。
ミュウが第3コーナーを曲がり終えようとしていたその時、
6組第9走者から6組アンカー、タカにバトンが渡った。


実況「おぉ〜っと!6組アンカー、飛ばしてます!7組に追いつけるかぁ〜〜!?」


実況が声を枯らすほど、展開は白熱するものとなっていた。
ミュウは前だけを見て必死に走っている、眉を顰めながら、バトンをギュッと握って。
その後ろからタカがドンドンと迫る。タカだって、真剣だ。
正々堂々闘う事を誓い合った2人。
誓約通り、2人の真剣さはトラック内外を問わず伝わっていただろう。

ミュウが第4コーナーに入る時点で、タカは第3コーナーに入るところだった。
いつの間にか自分は、トラック内を突っ切り、
ミュウが向かってくるゴール側に立っていた。


7組一同「ミュウ!頑張れ!頑張れ〜〜!!」


トラック内からもトラック外からも、
3年7組の仲間達は懸命に走る1人のクラスメイトを応援している。
カズも、陸部のムードメーカーも、一緒に走ってきた仲間も、
そして応援席から割れんばかりの声を張り上げる仲間も、
みんな、ミュウを応援している。
ミュウはその応援に、懸命な走りで応えていた。
苦しさに必死に耐えながら、応えていた。

そんな中、タカが迫る。
ミュウが第4コーナーを曲がり終わった時、タカはもう、すぐ背後に迫っていた。
その距離、10mないか。最後の直線勝負になりそうだった。

ミュウがラストスパートに入った時、タカも直線に入る。
ミュウとの距離は5mもない。


カズ「ミュウ!最後だ!飛ばせっ!!」


カズのコトバと重なり、タカがミュウの横へ並ぼうとしたその時、
ミュウは両手を突き出して、思いっきりアタマからゴールへと飛び込んだ。


ないと「ミュウ!!」


ゴールテープが切られた瞬間、ミュウのカラダは宙を舞っていた。
そのまま身体全体から地面に滑り込むミュウ。
その左手には7組全員の頑張りの象徴であるバトンが、
そして右手には、彼女自身が切ったゴールテープがしっかりと握られていた。






大歓声が溢れる中、7組走者と応援席に居た仲間は全て、
みんなミュウの元へと駆け寄っていった。
アンカー7人全員がゴールし終えた後、ミュウはゆっくりとカラダを起こし、
7組の仲間全員に満面の笑みでVサインをつくってみせた。



ミュウのリベンジは、見事に成功したのだった。





体育祭は劇的な終わりを迎え、無事優勝することができた3年7組は、
閉会式の時もハイテンションな状態が続いた。

閉会式後、一度クラスに戻っても7組のハイテンションは変わらなかった。
担任の声も聞こえないくらいの騒ぎ。
最終的に、担任は黒板に伝えることだけ伝え、
寂しい背をこちらに見せながら職員室へと去っていった。





クラスの盛り上がりも漸く収まり、委員会無所属の生徒は続々と帰宅の途についていた。
そんな中、自分とミュウは風紀委員としての後片付けに向かわなければならなかった。

下駄箱へ向かう廊下にて、

ミュウ「あぁ〜〜……!」

ないと「どしたん?急に。」

ミュウ「ここまで皆に支えられるなんて思わなかったよ、ホント。」

ないと「日頃の行いやろ。(笑)」

ミュウ「とーぜん!!(笑)」

エラそうに腕組みをしてミュウがカッコつけ最前線の態度を見せる。
いつものミュウだった。いや、いつものミュウより、もっと明るいミュウだった。

昇降口から出れば、体育祭は終わったのに、外はまだまだ熱気に溢れていた。

ミュウ「思えば…」

ないと「うん?」

ミュウ「今日は2つもイイコト見つけたよ♪」

ないと「イイコト?2つ??」

ミュウ「振り返れば、風紀委員の仲間と、7組の仲間がいるんだなってコト♪」

ないと「そやね、これも日頃の行いか?」

ミュウ「ん〜、これは、みんなの優しさ、かな?」

グラウンドまで降り立てば、既に各委員がせっせと片付けに勤しんでいる。
それほどまで長い間、3年7組は盛り上がっていたのだった。

ないと「タカ〜、わりぃな。」

タカ「お、ないと。おせーぞ;」

朝礼台まで行けば、既に片付けを始めていたタカとサトの6組コンビに出会った。

サト「ミュウ!優勝オメデト!ってか、ミュウの走りカッコよかったよ〜!!」

ミュウ「ほんと!いや〜最後はタカに抜かれると思ってたけどねぇ。」

タカ「まさか、最後の最後で跳ぶとはな(笑)」

ないと「でも、ミュウとタカの勝負は正々堂々としてたよ、どっちもマジで走ってたの伝わったし。」

片付け材料、パイプ椅子を運びながら、そんな話を続ける。

タカ「ミュウには負けたよ。俺もめっちゃ頑張ったんだけどなぁ;」

サト「何か、7組全体に負けた、って感じだったよね;」

ないと「いや、6組の追い上げは焦ったわ、第9走者の時点であそこまで追い上げられるとは;」

ミュウ「ホントホント;まさか最後、タカと一騎撃ちになるとはね;」

パイプ椅子を体育館へと運び込む。ステージ下では担当の先生が納入を待っていた。
運んだパイプ椅子を先生に託し、再びグラウンドへと戻る。
その時、自分達4人は終始笑いながら盛り上がっていたのを今でも覚えている。





始まりから終わりまで笑顔が絶えなかった後片付けも終わり、教室へと戻れば、
先程までの盛り上がりが嘘であったかのように教室は静まり返っていた。
乱れて並ぶ机、散らばる紙吹雪、ボロボロになったメガホン。
それらを見れば、体育祭が終わったという事を実感せざるを得なかった。
が、今年の体育祭はこれまでのモノとは違う。
体育祭で暗黙の了解的にポイントとなるチームワークという面では、
過去最高のパフォーマンスが出来たと思えた体育祭であった。



ないと「じゃ、帰るか〜、昇降口でタカとサトも待ってるコトやし。」

ミュウ「あ、ちょっと待って。」

そう言うと、ミュウは、担任が書いたメッセージをアッサリと消し、
黒板に大きな文字を書き始めた。

『ありがとう!7組サイコー!Byミュウ』

白・黄色・赤のチョークをふんだんに使って黒板の8割を使ったメッセージ。
言葉で伝えきれない気持ちを、ミュウなりの精一杯の言葉で表現したのだろう。

そのメッセージは明日の朝、自然とクラスメイトに届く。
ミュウは、皆にこの気持ちが伝わるか不安だと帰り際に言っていたが、
自分は口に出さないにしても、気持ちは必ず伝わると確信を持っていた。



ないと「明日って、登校日やんな?」

サト「でもぉ、確か2限に登校だよ♪」

タカ「サボりてぇ〜;」

ミュウ「まぁまぁ、2限に登校すればいいんだし、ゆっくりできるじゃん!」

タカ「まぁ…そーだな。 じゃ、俺こっちだから。」

サト「ってか、みんなココ(正門)でオサラバだよね(笑)」

ないと「見事に家の場所バラバラやからな(笑)」

ミュウ「じゃ、また明日〜!」






…なんて軽い気持ちでその日は別れ、長い長い一日は終わったのであった。






が、翌朝は、何と2限登校ではなく、2限開始(15分も違う)の日であった。
前者だと思っていた自分とミュウは遅刻スレスレで昇降口にて出会った。

ないと「あと2分かよ;」

ミュウ「もぅ!サトのやつぅ〜;;」

ないと「まぁ、自身で確認しなかった自分らにも責任あるけどね;」

上履きは半履きで、4階まで階段を駆け上がる。

ミュウ「間に合うかなっ!?」

ないと「間に合う!…たぶん。」

ミュウ「さっきチラッと6組の下駄箱見たけど、タカもサトもまだ来てないみたい(笑)」

ないと「ご愁傷様っ!(笑)」




ガラッと勢いよくクラス前方のドアを開ければ、既にクラスメイトは揃っていた。
担任とクラスメイト、約35名の視線が自分たちに注がれる。

ないと「… … …セーフ?」

担任「…ギリギリセーフ。」

ミュウ「あぶなぁ〜;;」

教室の時計を見れば、実は1分ほどアウトだったのだが、
担任のささやかな優しさで誤審判定に持ち込んでもらった。

担任「そうそう、コレ、許可なく消せないんだけど…;」

ドアの所で安堵する自分ら2人にそう言った担任は黒板を指差す。

 『ありがとう!7組サイコー!Byミュウ』

先日のメッセージだ。でも、書かれていたのはそのメッセージだけではなかった。
ミュウのメッセージを囲う、多くのクラスメイトの名前と小さなコメント。

 『リベンジ達成おめでと〜!』
 『ミュウ IS ヒロイン OF US!』
 『感動をありがとう!!』

など、数々のコメント。黒板にはもう書くスペースが残されていないほどだった。
それを見て暫し立ち尽くす風紀委員2人。
確信していたとは言え、現実に直面すれば非常に悦ばしかった。
ミュウの気持ちは、100%クラスメイトに伝わっていたのだった。




体育祭フィーバーの余韻は暫くの間、続いた。
3年7組が魅せた体育祭での団結とミュウのリベンジは、
『永遠のミラクル』と名づけられ、その後も3年7組団結の代名詞的な言葉になった。




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話し終わった頃にはもう時刻は23時を過ぎていた。
ファミレスの混雑も緩和し、お客さんは自分達を含めて数組になっていた。

のんの「へぇ〜!感動的なドラマだね☆」

わこ「スゴイですね!か、か、感動したっ!」

ないと「元首相かよ; まぁ完全なミラクル、と言えるかは個人次第になるけども。」

のんの「どういう事??」

ないと「話のメインであるミュウのリベンジ達成そのものがミラクルであるとは思えないからだよ。」

わこ「リベンジ達成はミュウさんの実力、って言いたいんですよね?」

ないと「そ。でも、サブ的な要素でミラクルは入ってるんよね。」

のんの「あ、ミュウさんとタカさんの一騎撃ち、とか?」

ないと「そう、ソコやねん。1組から5組もいる中で、最後7組と6組の競争になったやろ?
    しかも、アンカーはミュウとタカの風紀委員コンビ。
    こうなった運命は、どう考えてもミラクルとしか思えないんよね。」

わこ「そうですねぇ。神様が操作したってカンジがしますねぇ〜。」

ないと「ま、ともかく、ミラクルと聴くと中3の『永遠のミラクル』が思い浮かぶんよ、自分は。」

のんの「うん。サブ的でも、その話は立派なミラクルだと思うよ!」

わこ「いや〜、イイ話をどうもありがと〜ございました^^」

ないと「いえいえ、お粗末さまでした。」

わこ「あ、今突然もう1個ミラクル見つけました!」

のんの「え?なになに??」

ないと「??」

わこ「アーチが、のんのさんと付き合ってるってコト!」

のんの「そ、それは違うと思うけど…;」

ないと「アーチに失礼やろ(笑)」



そんなこんなでミラクルについての談議は日付が変わる頃まで続けられたのだった。。。







ミラクルについて振り返る話としましては、ここで終わりです。
導入編からご覧になってくださった方々、ホンマに多謝でしたmm

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